01手太陰肺経-2
【原文】
肺手太陰之脈、起于中焦、下絡大腸、還循胃口、上膈属肺。従肺
系横出腋下、下循臑内、行少陰心主之前、下肘中、循臂内上骨下廉、
入寸口、上魚、循魚際、出大指之端。其支者、従腕後直出次指内廉、
出其端。
是動則病肺脹満、膨膨而喘咳、缺盆中痛、甚則交両手而暓。此為臂厥。是主肺所生病者、咳、上気喘渇、煩心、胸満、臑臂内前廉痛厥、掌中熱。気盛有余、則肩背痛、風寒、汗出中風、小便数而欠。気虚則肩背痛寒、少気不足以息、溺色変。為此諸病、
盛則写之、虚則補之、熱則疾之、寒則留之、陥下則灸之、不盛不虚、以経取之。盛者寸口大三倍千人迎、虚者則寸口反小于人迎也。
【書き下し文】
肺 手の太陰の脈は、中焦に起こり、下りて大腸を絡い、還りて胃口を循り、膈を上りて肺に属す。肺系より横に腋下に出で、下りて臑内を循り、少陰心主の前を行き、肘中を下り、臂内を循り、骨の下廉に上り、寸口に入り、魚に上り、魚際を循り、大指の端に出づ。其の支なる者は、腕後より直ちに次指の内廉に出で、其の端に出づ。
是れ動けば則ち肺脹満し、膨膨として喘咳し、缺盆の中痛み、甚だしければ則ち両手を交えて暓するを病む。此れを臂厥と為す。是れ肺の生ずる所の病を主る者、咳
し、上気して喘渇し、煩心し、胸満し、臑臂の内前廉痛みて厥し、掌の中熱す。気盛んにして有余なれば、則ち肩背痛み、風寒し、汗出でて中風し、小便数にして欠
なし。気虚すれば則ち肩背痛み寒え、気少なくして以て息するに足らず、溺の色変ず。
此の諸病を為むるに、盛んなるは則ちこれを写し、虚するは則ちこれを補い、熱するは則ちこれを疾くし、寒ゆるは則ちこれを留め、陥下するは則ちこれに灸し、盛んならず虚ならざるは、経を以てこれを取る。盛んなる者は寸口の大なること人迎に三倍し、虚する者は則ち寸口反って人迎より小なるなり。
【注釈】
中焦-中脘の部位を指す。
絡う-連絡の意味。本経と表裏をなしている蔵府を纏うことを全て「絡う」という。
還る-経脈が循行してまた戻って来ることを指す。
胃ロ-胃の上口の賁門と下口の幽門を指す。
循る-沿うこと。
属す-隷属の意味。経脈がその本経の蔵府に連なることを全て「属す」という。
肺系-肺と連続している気管、喉嚨等の組織。
臑-腋に相対する上腕内側。
廉-辺縁の意味。
魚-手の親指の本節の後の掌側で肌肉の隆起しているところ。
魚際-「魚」の辺縁を「魚際」と言う。
是れ動く-「動」とは変動である。外因が経脈に影響して発生する疾病を「是動病」という。張志聡の説「いったい『是動』とは、病が体外から起こるものをいう」。
暓す-物を見ると曖昧模糊としてはっきりせず、精神が混乱していること。
臂厥-病名。背部の経気が厥逆し、両手が胸の前で交叉し、物を見るとはっきりしない。
生ずる所の病-本経と相連続している蔵府ならびに影響している経脈に生ずる疾病。
渇-『甲乙経』『脈経』では共に「喝」に作る。張介賓の説「渇は喝に作るべきだ。声が粗く急いていること」。
小便数にして欠す-小便が䪼 繁で量が少ないこと。
【訳注】
(一)「上骨下廉」の訳としてはどうか。前腕の高骨の下縁(孔最、列欠の線上)を指す。
(二)四倍になる。
【現代語訳】
手の太陰肺経は、
3-1中脘部より起こり、下に向かって大腸を絡い、戻って胃の下口から上口を循り、上って横隔膜を貫き、肺蔵に属する。再び気管、喉より横に腋下に走り、上腕の内側に循り下降し、手の少陰経と手の厥陰経の前面に走り、直ちに下って肘の中に出て、その後に前腕の内側を循り、掌後の高骨の下縁を経て、寸口の動脈のところに入り、魚に上り、手の魚の辺縁に循り、拇指の尖端に出る。
其の支脈は、手腕の後より直ちに示指の内側の尖端に走り、手の陽明大腸経と相い接する。
3-2 外邪が本経を侵犯して生ずる病証は、肺部が膨膨として脹満し、咳嗽して呼吸があらく、缺盆部が疼痛し、重くなると両手を交叉して胸部をおさえるようになり、視るものが曖昧模糊としてはっきりしなくなる。此れを臂厥病と言う。
本経が主っている肺蔵によって生ずる病変は、咳嗽し、呼吸切迫し、喘して声が粗急し、心中煩乱し、胸部が満悶し、臑臂部の内側の前のへりが疼痛厥冷し、あるいは掌心が発熱するなどである。
本経の気が盛んで有余で
あると、肩背が疼痛し、風寒を畏れ、汗が出るなどの中風症を発生し、小便の回数は多いが量が少なくなる。
本経の気が虚する彑肩背が疼痛し、呼吸が短くなり、小便の色が変って異常になる。
以上のような病証の場合、実証には瀉法を用い、虚証には補法を用い、熱証には速刺法を用い、寒証には置鍼法を用い、脈が虚陥していれば灸法を用い、実でも虚でもなければ本経を取って治療する。本経の気が盛んであると
は、寸口脈が人迎脈と比べて三倍大きいことであり、気が虚するとは、寸口脈がかえって人迎より小さいことである」。
【概説】
・太陰経 多血少気
・肺は気を主り、気を全身に巡らしている。
肺の主な働きは気を全身に巡らすことである。この巡らす働きをしているのが肺気である。肺気はほぼ衛気と同じと考えてよく、心や肝に蔵されている血や腎に蔵されている津液を巡らす助けをしている。呼吸されるたびに気が巡らされている。呼吸の原動力となっているのが宗気である。これは脾で造られた気と呼吸によって取り込まれた天空の気が合したもので、循環せずに胸中に存在している。
宗気→脾で作られた気+呼吸によって得られた天空の気
胸中=胸腔のこと
・肺は皮毛を主る。
皮毛とは表皮とうぶ毛のことである。肺気は皮毛に衛気を巡らし、温度に応じて毛穴を開いたり閉じたりして体温の調節をしている。このことを腠理の開闔という。腠理とは気の出入りする穴のことで、表皮だけではなく臓腑にも存在するが、表皮においては毛穴のことである。衛気は腠理を閉じることによって外邪の侵入を防いでいる。肺気はまた衛気を巡らすと同時に津液も巡らしており、皮毛に潤いを与えている。そのため、肺の働きが衰えると皮膚に潤いがなくなりかさつく。
肺の色体表
五臓 | 五腑 | 五精 | 五主 | 五官 | 五華 | 五志 | 五味 | 五悪 | 五変 | |
肺 | 大腸 | 魄 | 皮毛 | 鼻 | 毛 | 憂悲 | 辛 | 燥寒 | 咳 |
【十四経発揮】
手の太陰脾経
肺、手の太陰の脈は中焦(任脈の中肢)に起こり、下って大腸をまとい(水分)還って胃囗(上屁)を循り。膈(横隔膜)に上り、肺に属す。
肺系(気管支)より横(中府、雲門)に腋下に出て、下って臑内(天府、侠
白)を循り、少陰(心経)と心主(心包経)’の前を循り、肘中(尺沢)に下り、
臂内(孔最)、上骨の下廉(列缺)を循り、寸囗(経渠、太淵)に入り、魚に上り、魚際を循り大指の端(少商)に出る。
その支(枝のこと)は腕後(列缺)より直ちに次の指(示指)の内廉(大腸
経)に出てその端に出る。
・① 関連臓腑
肺に属し、大腸に絡し、横膈膜を通過し胃や腎などと関係する。
② 所属穴
中府・雲門・天府・侠白・尺沢・孔最・列欠・経渠・太淵・魚際・少商
【現代語訳解説】
4-1流注
肺手の太陰経は、中脘部より起こり、
05-02a肺手太陰之脉、起于中焦、
〈滑壽〉曰、起、發也、中焦者、在胃中脘、當臍上四寸之分、手太陰起於中焦、受足厥陰之交也、
〈張介賓〉曰、手之三陰、從藏走手、故手太陰脉發於此、凡後手三陰經、皆自内而出也、按此十二經者、即營氣也、營行脉中、而序必始於肺經者、以脉氣流經、 經氣歸於肺、肺朝百脉、以行陰陽、而五藏六府、皆以受氣、故十二經以肺經爲首、循序相傳、盡於足厥陰肝經、而又傳於肺、終而復始、是爲一周、
下に向かって大腸を絡い、
05-02b下絡大腸、
〈滑壽〉曰、絡、繞也、由是循任脉之外、足少陰經脉之裏、以次下行、當臍上一寸、水分穴之分、繞絡大腸、手太陰陽明、相爲表裏也、
〈張介賓〉曰、按十二經相通、各有表裏、凡在本經者、皆曰屬、以此通彼者、皆曰絡、故在手太陰、則曰屬肺絡大腸、在手陽明、則曰屬大腸絡肺、彼此互更、皆以本經爲主也、下文十二經、皆放此、
戻って胃の下口から上口を循り、
05-02b還循胃口、
〈滑壽〉曰、還、復也、循、巡也、又依也、㳂也、胃口、胃上下口也、胃上口、在臍上五寸上脘穴、下口、在臍上二寸下脘穴之分也、
〈張介賓〉曰、自大腸而上、復循胃口、
上って横隔膜を貫き、肺蔵に属する。
05-02b上膈屬肺、
〈滑壽〉曰、屬、會也、膈者、隔也、凡人心下有膈膜、與脊脇周回相着、所以遮隔濁氣、不使上薰於心肺也、屬會於肺、榮氣有所歸於本藏也、
〈張介賓〉曰、人有膈膜、居心肺之下、前齊鳩尾、後齊十一椎、屬者、所部之謂、
再び気管、喉より横に腋下に走り、
05-02b從肺系横出腋下、
〈滑壽〉曰、肺系、謂喉嚨也、喉以候氣、下接於肺、肩下脇上際曰腋、自肺臟、循肺系、出而横行、循胸部弟四行之〈中府〉〈雲門〉以出腋下、
上腕の内側に循り下降し、
05-02b下循臑内、
〈滑壽〉曰、膊下對腋處爲臑、肩肘之間也、
〈張介賓〉曰、膊之内側、上至腋、下至肘、嫩耎白肉曰臑、〈天府〉〈俠白〉之次也、
手の少陰経と手の厥陰経の前面に走り、
05-03a行少陰心主之前、
〈滑壽〉曰、蓋手少陰、循臑臂出手小指之端、手心主、循臑臂出中指之端、手太陰、則行乎二經之前也、
直ちに下って肘の中に出て、その後に前腕の内側を循り、
05-03a下肘中、
〈滑壽〉曰、臑盡處爲肘、肘、臂節也、
〈張介賓〉曰、膊臂之交曰肘中、穴名尺澤、
掌後の高骨の下縁を経て、
05-03a循臂内上骨下廉、
〈滑壽〉曰、肘以下爲臂、廉、隅也、邊也、
〈張介賓〉曰、内、内側也、行〈孔最〉〈列缺〉〈經渠〉之次、骨、掌後高骨也、
寸口の動脈のところに入り、魚に上り、
05-03a入寸口、
〈滑壽〉曰、手掌後高骨傍動脉爲關、關前動脉爲寸口、
〈張介賓〉曰、即〈大淵〉穴處、
手の魚の辺縁に循り、
05-03a上魚、循魚際、
〈滑壽〉曰、謂掌骨之前、大指本節之後、其肥肉隆起處、統謂之魚、魚際則其間之穴名也、
拇指の尖端に出る。
05-03b出大指之端、
〈滑壽〉曰、端、杪也、
〈張介賓〉曰、端、指尖也、手太陰肺經、止於此、
其の支脈は、手腕の後より直ちに示指の内側の尖端に走り、
05-3b其支者、
〈張介賓〉曰、此以正經之外、而復有旁通之絡也、
手の陽明大腸経と相い接する。
05-03b從腕後、直出次指内廉、出其端、
〈滑壽〉曰、臂骨盡處爲腕、
〈張介賓〉曰、臂掌之交曰腕、此本經別絡、從腕後上側列缺穴、直出次指之端、交商陽穴、而接乎手陽明經也、
4-2 病症
外邪が本経を侵犯して生ずる病証は、
05-03b是動、
〈張介賓〉曰、動、言變也、變、則變常而爲病也、如陰陽應象大論曰、在變動爲握爲噦之類、即此之謂、
肺部が膨膨として脹満し、咳嗽して呼吸があらく、
05-03b則病肺脹滿膨膨、而喘咳、
缺盆部が疼痛し、
05-03b缺盆中痛、
〈張介賓〉曰、缺盆雖十二經之道路、而肺爲尤近、故肺病則痛、
糊としてはっきりしなくなる。
05-04a甚則交兩手而暓、
〈張介賓〉曰、暓、木痛不仁也、
此れを臂厥病と言う。
05-04a此爲臂厥、
本経が主っている肺蔵によって生ずる病変は、
05-04a是主肺所生病者
〈張介賓〉曰、按二十二難、以是動爲氣、所生爲血、先病爲氣、後病爲血、若乎近理、然細察本篇之義、凡在五藏、則各言藏所生病、凡在六府、則或言氣、或言血、或脉、或筋、或骨、或津液、其所生病、本各有所主、非以血氣二字、統言十二經者也、難經之言、似非經旨、
咳嗽し、呼吸切迫し、喘して声が粗急し、
05-04b欬上氣喘渴、
〈張介賓〉曰、聲麤急也、
心中煩乱し、胸部が満悶し、
05-04b煩心胸滿、
臑臂部の内側の前のへりが疼痛厥冷し、あるいは掌心が発熱するなどである。
05-04b臑臂内前廉痛、厥、掌中熱、
〈張介賓〉曰、太陰之別、直入掌中、故爲痛厥掌熱、
本経の気が盛んで有余であると、
肩背が疼痛し、風寒を畏れ、汗が出るなどの中風症を発生し、小便の回数は多いが量が少なくなる。
05-04b氣盛有餘、則肩背痛、風寒汗出中風、小便數而欠、
〈張介賓〉曰、手太陰筋結於肩、藏附於背、故邪氣盛、則肩背痛、肺主皮毛而風寒在表、故汗出中風、肺爲腎母、邪傷其氣、故小便數而欠、
本経の気が虚する彑肩背が疼痛し、呼吸が短くなり、小便の色が変って異常になる。
05-05a氣虚、則肩背痛寒、少氣不足以息、溺色變、
〈張介賓〉曰、肩背者、上焦之陽分也、氣虚則陽病、故爲痛爲寒、而怯然少氣、金衰則水涸、故溺色變而黄赤、
以上のような病証の場合、実証には瀉法を用い、虚証には補法を用い、熱証には速刺法を用い、寒証には置鍼法を用い、脈が虚陥していれば灸法を用い、実でも虚でもなければ本経を取って治療する。本経の気が盛んであると
は、寸口脈が人迎脈と比べて三倍大きいことであり、気が虚するとは、寸口脈がかえって人迎より小さいことである」。
5-05a爲此諸病、
05-05a盛則寫之、虚則補之、熱則疾之、寒則留之、陷下則灸之、不盛不虚、以經取之、
禁服篇云、盛則寫之、虚則補之、緊痛則取之分肉、代則取血絡、且飲藥、陷下則灸之、不盛不虚、以經取之、名曰經刺、又云、陷下者、脉血結于中、中有著血、血寒、故宜灸之、
六十九難曰、經言、虚者補之、實者瀉之、不實不虚、以經取之、何謂也、然、虚者補其母、實者寫其子、當先補之、然後瀉之、不實不虚、以經取之者、是正經自生病、不中他邪也、當自取其經、故言以經取之、
〈張介賓〉曰、盛寫虚補、雖以鍼言、藥亦然也、熱則疾之、氣至速也、寒則留之、氣至遲也、陷下則灸之、陽氣内衰、脉不起也、不盛不虚、以病有不因氣血之虚實、而惟逆於經者、則當隨經所在、或飲藥、或刺灸以取之也、下文諸經之治、義與此同、
05-05b盛者、寸口大三倍于人迎、虚者、則寸口反小于人迎也、
〈張介賓〉曰、寸口主陰、肺爲大腸之藏、手太陰經也、故肺氣盛者、寸口大三倍於人迎、虚則反小也、人迎者、足陽明之動脉、在結喉旁一寸五分、乃三陽脉氣所至也、陰陽別論曰、三陽在頭、三陰在手者、其義即此、下同、
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